定跡研究室 四間飛車編

1 後手、居玉棒銀の攻め 2017.8.14

今回からしばらくの間、趣向を変えて初級者向けに四間飛車の指し方を解説していきます。

四間飛車は、昔からアマチュアの間では矢倉と並ぶ2大人気戦法です。四間飛車は駒組みが大変分かりやすい上に、攻守のバランスに優れています。筆者が将棋を覚えて間もない頃に読んだ定跡書が、1982年に当時の中原誠名人が書かれた「中原の四間飛車で勝つ」という書籍でした。中原名人は当時、長年にわたり名人位を保持されていて、矢倉を得意とする居飛車党の本格派でまさに「王者」と呼ぶに相応しい堂々とした棋風でしたが、四間飛車について書いたこの本も、まさに「中原自然流」と言われる格調高い手順を、初級者にも分かりやすく解説されていました。



中原先生のスタイルに習い、四間飛車側を先手にして見やすいようにします。そして、居飛車側のいろんな対抗策に対して、出来るだけ四間飛車側が有利になる手順を解説していきます。四間飛車は受け身の戦法と言われ、棒銀など他の初心者向けの戦法と比較して明快さに劣る部分がありますが、このコーナーでは「攻める四間飛車」として気持ち良く攻めて行ける手順にしていきたいと思います。

初手からの指し手
  ▲7六歩 △8四歩 ▲6八飛 △3四歩 (第1図)



3手目に▲6八飛で四間飛車を明示しました。対して後手は、4手目に△3四歩と角道を開けます。最近は振り飛車から角交換をする「角交換四間飛車」もよく見かける戦法ですが、いきなり角交換する指し方は初級者にとって指しこなすのが難しいですので、まずは▲6六歩と角道を止めて指す普通の四間飛車をお勧めします。

第1図以下の指し手
  ▲6六歩 △8五歩 (第2図)



第2図は重要なポイントです。△8五歩は油断のならない手で、次に△8六歩▲同歩△同飛として、飛車を使って角の頭を攻める手を狙っています。そうなると四間飛車側はいきなりピンチとなってしまいます。第2図では▲7七角と受ける手を覚えましょう。「△8五歩と突いて来たら▲7七角と受ける」のは大事な一手です。

第2図以下の指し手
  ▲7七角 △6二銀 ▲7八銀 △7四歩 (第3図)



第3図まで、先手の左半分の「6八飛、7八銀、7七角」という形は四間飛車の基本形です。玉を美濃に囲うのも大事ですが、その前にまずこの基本形を作っておくのが無難な手順と言えます。第3図からは、先手は美濃囲いに、後手は舟囲いに囲うのが常道ですが、初級者同士の対戦では玉を囲わないでいきなり棒銀で攻めて来る方もよく見かけますので、今回はまずその居玉棒銀に対する指し方を解説することにします。

第3図以下の指し手
  ▲4八玉 △7三銀 ▲3八玉 △8四銀 ▲2八玉 △7五歩 (第4図)



先手は一目散に美濃囲いを目指したのに対して、後手の方も一目散に棒銀で攻めてきます。第4図も重要な局面で、もし素直に▲7五同歩と取ってしまうと△同銀で銀を進出されてしまい、次に△8六歩を狙われて四間飛車側が指しにくくなってしまいます。第4図では、次の一手はどう指すべきでしょうか?

第4図以下の指し手
  ▲6五歩 △7七角成 ▲同 銀 △7六歩 ▲同 銀 △7五歩 (第5図)



第4図では、▲6五歩と突くのが急所の一手です。▲6五歩は四間飛車の特権で、先手の飛車と角が同時に働くようになります。ただし、角と角とが向かい合うことになりますので、▲6五歩を突くタイミングは非常に重要です。本譜の場合、後手が棒銀で先手の角を狙おうとした、まさにその瞬間を狙って突くことにより、後手にカウンターパンチを浴びせることが出来るわけです。▲6五歩の反撃は、居飛車側が急戦で来たときは、頻繁に出現する手筋ですので、覚えておきましょう。

後手は角を交換した後、△7六歩と歩を取り込んでから、△7五歩で銀を抑え込んできます。第5図では、おとなしく▲6七銀と引いておいても、振り飛車側が有利な形です。何故なら、後手の攻撃目標になっていた角をうまくかわして棒銀が空振りになっている上に、陣形の差(美濃囲いvs居玉)が歴然としているからです。

しかし第5図では、▲6七銀と引く手よりも、もっと良い手があります。駒を追われたときに、おとなしく逃げる前に、もっと良い手がないかを常に考えるようにすると良いです。

第5図以下の指し手
  ▲5五角 △9二飛 ▲1一角成 △7六歩 ▲2一馬 (第6図)



▲5五角と天王山の位置に角を打つのが、急所の一手です。四間飛車側が角を打つ場所として、5五の他には6六と4六も好手になることが多いです。5五、6六、4六の3点は「黄金の三角地帯」と呼ばれていて(本当は呼ばれてませんが、今そう名付けました)、良い位置です。角を手持ちにしているときは、その黄金の三角地帯に角を打つことを、常に考えるようにしましょう。

▲5五角は、8二の飛車と1一の香車の両取りとなっています。当然、価値のより高い飛車取りの方を受けることになります。飛車取りの受け方としては、@7三銀、A7三桂、B9二飛(本譜)の3つが考えられますので、順に見ていきましょう。

@△7三銀は悪い手で、▲7四歩(変化1図)と打たれると、△同銀には▲8二角成で飛車を取られてしまうので、失敗です。



A7三桂に対しては、▲7五銀と銀を捨ててしまうのが好手です。以下△同銀、▲7三角成(王手飛車取り)、△6二飛、▲7四桂(変化2図)となり、四間飛車側が勝勢です。角で飛車を取るのではなく、より安い駒の桂馬で飛車を取るのが大事な一手です。



結局、本譜のようにB9二飛と飛車を逃げることになりますが、▲1一角成から▲2一馬として、桂馬と香車を取ることが出来ました。その間に7六の銀は取られてしまいましたが、第6図では、次に▲6四歩から飛車を活用して攻める手が狙いとして残っており、2一の馬との組み合わせで後手玉を左右から挟撃する形が見込めますので、四間飛車側が優勢です。

以上、今回は居玉のまま棒銀で一直線に攻めてくる指し方に対する、四間飛車の迎撃方法を解説しました。棒銀を正面から受ける手だけを考えるとなかなかうまく行きませんが、本譜のように、棒銀をかわしながら強く反撃に転じるのが、玉の堅さの差を生かした好判断だと思います。次回以降は、後手が舟囲いに囲ってから攻めてくる戦法に対する、四間飛車側の指し方を解説していきます。

パナソニック将棋部ホームに戻る
inserted by FC2 system