定跡研究室 四間飛車編

4 山田定跡の超急戦 2017.8.20

今回は、後手が玉を舟囲いに囲ったあと、山田定跡と呼ばれる△7五歩の超急戦で攻めて来た場合の、四間飛車の指し方を解説します。

【初手からの指し手】
▲7六歩 △8四歩 ▲6八飛 △3四歩 ▲6六歩 △8五歩 ▲7七角 △6二銀 ▲7八銀 △4二玉 ▲4八玉 △3二玉 ▲3八玉 △5二金右 ▲2八玉 △1四歩 ▲1六歩 △5四歩 ▲3八銀 △7四歩 ▲5八金左 △4二銀 ▲4六歩 △5三銀左 ▲5六歩 (第1図)



第1図まで、前回の棒銀と全く同じ手順なので、ここまでの手順の解説は割愛します。前回は、第1図から△7三銀と出て棒銀で攻める指し方を解説しました。今回は、第1図でいきなり△7五歩と突く「山田定跡」を解説します。

山田定跡は、打倒大山に激しい闘志を燃やしながらも1970年に現役A級在位のまま36歳の若さで亡くなった(故)山田道美九段が創案した戦法です。山田教室という研究会を開き、そこでは中原名人や青野九段が強く影響を受けたと言われています。大山十五世名人の得意とする四間飛車を破るために研究された戦法が山田定跡です。


【第1図以下の指し手】
△7五歩 ▲同 歩 △6四銀 ▲7四歩 (第2図)



△6四銀と出る前に、先に△7五歩、▲同歩と突き捨ててスピードアップを図るのが、定跡になっています。突き捨てを入れずに単に△6四銀と出る手も考えられますが、それには▲6五歩と突かれて銀が前に進めず後退を余儀なくされるため、先に7五への進路を作っておくわけです。

さて、△7五歩、▲同歩、△6四銀と進出した局面で、つい▲6五歩と銀取りに歩を突く手を考えてみたくなります。それは悪い手ではないのですが、ここでは▲7四歩と歩を突いておき、もう一手銀を引き付けてから▲6五歩を狙うのが定跡手順です(第2図)。▲7四歩は単に歩を逃げただけでなく、非常に大きな拠点であり、△7三桂の活用を防ぐと同時に、将来▲7三歩成と「と金」を作るのを含みにしています。


【第2図以下の指し手】
△7五銀 ▲6五歩 △7七角成 ▲同 銀 (第3図)



△7五銀と出て、次に△8六歩、▲同歩、△同銀と先手の角を攻める手を狙います。そうなると先手がまずいので、ここでいよいよ▲6五歩を決行します。▲6五歩はこれまで何度も出てきたように、先手の角が攻められる直前で突いて、四間飛車側にとり負担となりそうな角を交換する手段です。

▲6五歩のタイミング
として後手の銀がどの位置のときに突いたら良いかは、棒銀、山田定跡など後手の戦型によって微妙に変わり難しいのですが、最初のうちは定跡手順を暗記していただくと、あとで意味が少しずつ分かるようになってくると思います。


【第3図以下の指し手(1)】
△8六歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲同 銀 △同 飛 ▲7七角 (第4図)



第3図では、△8六歩に代えて△2二角と自陣角を打つ手も有力で、この変化は後で解説します。

後手は△8六歩と突いて、銀交換をしながら△8六飛と飛車をさばいてきました。飛車が成り込まれそうでピンチに見えますが、第4図の▲7七角が好手です。▲7七角は8六飛と1一香の両取りなのですが、真の狙いは飛車交換です。後手の舟囲いよりも先手の美濃囲いの方が、飛車を成り込んでの横からの攻めに強いので、飛車が交換出来れば四間飛車が有利になることが多いです。

▲7七角に代えて▲8八歩と打って飛車成りを防ぐ手も考えられますが、それは弱気な一手で、△2二角と自陣角を打たれると、先手の飛車が使いにくくなり、後手が有利となります。


【第4図以下の指し手】
△8九飛成 ▲8八飛 △同 龍 ▲同 角 △4四角 ▲同 角 △同 歩 ▲8二飛 (第5図)

  

△8九飛成で桂馬を取られながら龍を作られてしまいましたが、その瞬間、▲8八飛で飛車交換を迫るのが好手です。飛車交換になれば、後でその飛車を敵陣に打ち込んで、桂馬を取り返すことが可能です。▲8八飛に対し本譜は△同龍ですが、代えて△7九龍と飛車交換を拒否する手に対しては、▲1一角成、△2二銀、▲同馬、△同玉、▲8一飛成(変化1図)となり、先手が優勢です。

本譜も、飛角総交換後、第5図まで飛車を先着した四間飛車側が優勢です。第2図で突いた▲7四歩の効果で、△7三桂と跳ねて桂馬を逃げることが出来ませんので、桂馬を取り返すことが出来ます。玉の囲いは、後手の舟囲いより先手の美濃囲いの方が固く、陣形の差で先手が優勢です。


次は、第3図の△8六歩に代えて、△2二角と自陣角と打つ変化を解説します。

【第3図以下の指し手(2)】
△2二角 ▲5七角 (途中図) △8六歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲8三歩 △同 飛 ▲8四歩 (第6図)

 

△2二角の意味としては、第4図の▲7七角成に対して△同角成と出来るようにしています。先手が指し手に窮したように見えますが、途中図の▲5七角の自陣角が好手です。▲5七角は難しい手で、定跡を知らないとなかなか打てない角です。

▲5七角は銀取りなので、△8六歩から棒銀を捌いてきます。△8六同銀に対して、▲8三歩から歩を連打するのが好手順です。5七の角が遠く8四の地点に利いていて、▲8四歩で飛車を抑え込めるのが、▲5七角と打った真の狙いです。


【第6図以下の指し手】
△7七銀成 ▲同 桂 △8二飛 ▲8三銀 (途中図) △同 飛 ▲同歩成 △7七角成 ▲7二と △5一銀 ▲7三歩成 (第7図)

 

第6図で△8二飛と逃げてしまうと▲8六銀として銀を取られてしまうため、一回△7七銀成で銀交換してから飛車を逃げましたが、途中図の▲8三銀で後手の飛車はこれ以上逃げ場所がありません。

途中図から、後手はやむなく△同飛としてから、△7七角成と桂馬を取りながら馬を作りますが、先手は▲7二とから▲7三歩成(第7図)で2枚のと金で攻める形となり、先手の美濃囲いは鉄壁であるため、四間飛車側が優勢です。第7図の▲7三歩成もまた、第2図で▲7四歩と突いて歩の拠点を作っておいた効果が現れています。


以上、第3図から2つの変化を解説しましたが、いずれも四間飛車側が優勢となりました。次回は、後手の急戦策の最後として、「鷺宮定跡」と呼ばれる急戦で攻めてきた場合の、四間飛車の指し方を解説する予定です。

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