定跡研究室 四間飛車編

6 後手、鷺宮定跡の急戦(その2) 2017.9.2

今回は、鷺宮定跡と呼ばれる△7二飛の急戦手法について、前回(その1)の続編です。

【初手からの指し手】
▲7六歩 △8四歩 ▲6八飛 △3四歩 ▲6六歩 △8五歩 ▲7七角 △6二銀 ▲7八銀 △4二玉 ▲4八玉 △3二玉 ▲3八玉 △5二金右 ▲2八玉 △1四歩 ▲1六歩 △5四歩 ▲3八銀 △7四歩 ▲5八金左 △4二銀 ▲4六歩 △5三銀左 ▲5六歩 (第1図)  △7二飛(第2図)

  

第1図まで、四間飛車vs居飛車急戦の基本形で、第2〜4回までと同じ手順です。第1図から△7三銀なら棒銀、△7五歩なら山田定跡でした。第3の手段として、第1図から飛車を1マス横に寄る(△7二飛)のが、鷺宮定跡(さぎのみやじょうせき)です(第2図)。

前回(その1)では、第2図から▲6五歩として、狙われている角を交換する指し方をメインに解説しましたが、角交換後に△7九角と打ち込んでくる手が鷺宮定跡の真骨頂と言える強力な一手で、居飛車側が有利になりました。

今回は、四間飛車側の有力な対抗手段として、第2図から▲6七金と上がる秘手を解説します。


【第2図以下の指し手】
▲6七金 (途中図) △7五歩 ▲同 歩 △6四銀 ▲6五歩 △7五銀 (第3図)

    

途中図の▲6七金は、美濃囲いの金を使って、後手の7筋からの攻撃を全力で受け止めようという意味で、力強い一手です。第3図の△7五銀はこの一手で、代わりに△7七角成としてしまうと、以下、▲同銀、△7五銀、▲7六歩、△8四銀、▲6六角と王手銀取りをかけて先手優勢となります。これが▲6七金と上がった狙いです。

この手(▲6七金)を筆者が最初に見たのは、(その1)でも触れた地元の将棋道場に通い始めてからおよそ一年後の1984年頃のことです。そのときは、筆者が居飛車側を持って鷺宮定跡を採用したのに対して、四間飛車側は地元のアマチュア四段で県代表を経験した強豪でした。

6七の地点には本来、銀が進むべきところで、代わりに金が上がってしまうと7八の銀が活用しづらくなってしまいます。▲6七金を最初に見たときの感想は、「力自慢のおじさんが指すような筋の悪い手だなぁ。」と子供心に思ったものです。ただ、その将棋は居飛車の筆者が当然ながら、力負けしてしまったのですが。

▲6七金に対して「筋の悪い手」という印象を30年間持ち続けていたのですが、2年前に出版された「久保&菅井の振り飛車研究」という書籍の中で、菅井新王位が鷺宮定跡に対して▲6七金(書籍では四間飛車が後手なので△4三金)と上がる手を有力な手段として解説されているのを拝見し、たいへん驚きました。考えてみると、菅井王位は筆者の郷里(広島県)と隣の岡山県のご出身で地理的に近いため、30年前の▲6七金が巡り巡って実体験として存在していたのかもしれません。たいへん面白いめぐり合わせだと思いました。

第2図から第3図に至る手順は、1984年の対局で筆者が実際に指したのと同一の手順です。以下は、「久保&菅井の振り飛車研究」で解説されている手順とは別の手順を解説します。


【第3図以下の指し手】
▲2二角成 △同 玉 ▲7七角 (途中図) △4四角 ▲同 角 △同 歩 ▲6九銀 (第4図)

  

△7五銀の進出を許した代償として、先手から角交換することで後手の陣形を乱した(2二玉型に)のは四間飛車側のメリットです。

途中図の▲7七角は、△4四角と合わせられると、単に4四に歩を進めさせるだけで手損に見えますが、後で△3三角と自陣角を打たれる手を緩和する高級手筋です。この局面では先手後手ともに、7七(3三)のラインに自陣角を打つのが急所になります。

後手の自陣角の筋を消した後、▲6九銀と引いて、凝り形をほぐしながら陣形を引き締めます。(第4図)


【第4図以下の指し手(1)】
△7六銀 ▲7八飛 (途中図) △7七歩 ▲同金 △同銀成 ▲同飛 △同飛成 ▲同桂 △7九飛 ▲5八銀打 (第5図)

  

まず目につく△7六銀と進出してくる手に対しては、▲7八飛と7筋に飛車を転換して迎え撃ちます。(途中図)

途中図で6七の金を取ると飛車を素抜かれてしまうため、やむを得ず△7七歩から総交換しますが、△7九飛と先着された手に対し、▲5八銀打とガッチリ持駒を投入した第5図は、陣形の差(先手:美濃囲いの堅陣、後手:バラバラ)、および後手は歩切れのため、先手有利です。


【第4図以下の指し手(2)】
△5三銀 ▲7八飛 △7六歩 ▲5八銀 (途中1図) △8六歩 ▲同 歩 △6四歩 ▲8三角 △7三飛 ▲6一角成 (途中2図) △6五歩 ▲7四歩 △同 飛 ▲8三馬 △7一飛 ▲8二馬 △7四飛 ▲9一馬 (第6図)

  

第4図からの△7六銀と出てもうまく行かなかったので、次は△5三銀と陣形を整備してみます。先手は▲7八飛と回って、次に7三歩や8三角を狙います。そこで△7六歩と打って先手の飛車先を抑え込みますが、先手は▲5八銀と上がって好形に組み替えることが出来ました(途中1図)。

途中1図にて、手を渡されても自陣をまとめる適当な手段がない後手は、8筋を突き捨てた後、△6四歩で6筋に戦線を拡大しますが、先手は▲8三角と敵陣に角を打ち込んで、馬を作ることに成功しました(途中2図)。

途中2図以下、先手は飛車を攻めながら手順を尽くして、▲9一角成と香車を得することに成功しました(第6図)。

第6図では、香得に加え、玉の堅さの差が大きく、先手有利です。



以上、今回まで6回にわたり、後手の急戦策に対する先手四間飛車側の対抗策を解説してきました。

四間飛車側の左銀をどのタイミングで▲6七銀と上がるか難しいのですが、本講座では基本的に▲7八銀の形で待機することで、▲6五歩のカウンターを実行しやすくするとともに、▲6七銀型にしたときの後手の有力作戦である「△6五歩早仕掛け」や「△6四銀左(右)戦法」をケアする必要がなく、後手の作戦を限定することが出来ました。(=解説も楽をすることが出来ました。)

なお、四間飛車の指し方の講座を始めた動機としては、筆者の所に新しく入門した子が四間飛車を勉強したいと言っていたので、愛弟子の勉強を手助けするために、好手筋を使いながら四間飛車側が勝つ手順を分かりやすく解説することを始めました。内容がだんだん難しくなり、初級者向けというより高段者向けみたいになってしまったことは反省材料です。


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