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今週の詰み筋 (連載 Vol.5) 2017.5.20

今回は少し古い将棋ですが、2011年6月8日に行われた第70期A級順位戦1回戦の渡辺明竜王vs.郷田真隆九段戦を取り上げます。
この将棋は、角換わり腰掛銀の先後同型から、先手有利とさせる「富岡流」の定跡に後手の郷田九段が果敢に挑んだものの、定跡どおりの手順でそのまま負かされたという、有名な将棋です。



第1図の▲1一角は、1992年に丸山九段が対米長九段戦で指した「丸山新手」を応用したものです(→オリジナルの丸山vs米長戦は第1図とは少し局面が異なります)。
それに対して△2八馬で飛車の逃げ場を問うのが定跡となっていて、1990年代前半以降2009年に「富岡流」が登場するまでは、▲4九飛もしくは▲6九飛と逃げて以下ほぼ互角の戦いとされていました。

第1図以下、渡辺vs郷田戦の進行は、
△2八馬、▲4四角成、△3九馬(28)、▲2二歩打、△同 金、▲3三銀打、△同桂、▲同歩成、
△4一玉、▲2二と   (第2図)



第1図から△2八馬に、飛車を見捨てて▲4四角成と銀を取って攻め合うのが「富岡流」の新手です。
富岡流の登場以降、この先後同型の定跡は次第に先手有利と見られるようになっていきました。

第2図以下、渡辺vs郷田戦の進行は、
△4九馬、▲7四桂打、△同金、▲5三馬、△5八馬、▲7二歩打、△同 飛、▲6二金打、
△4二金打、▲4五桂、△5三金、▲同桂成、△6二飛、▲同成桂   (第3図)



後手玉は受けなしとなりましたが、持ち駒をたくさん蓄えたので、第3図から先手玉を詰ましにかかります。
△6八銀打、▲8八玉  まで85手で先手の勝ち   (図省略)

△6八銀打を取れば先手玉は詰みますが、▲8八玉と逃げて詰みません。
「もしや」と思い、脊尾詰で試してみましたが、やはり詰まないようです。
この対局当時、第3図の局面が詰まないことは若手棋士の研究で事前に知られていたそうで、楽に勝てた(?)渡辺竜王は将棋を指した気がしなかったことでしょう。

実は私(脊尾)も、2012年頃から数年間、後手側を持って指すことが割と多かったです。
私が当時、個人的に研究していたのは、第3図に至る手順で△8六歩の突き捨てが事前に入らないか、という点です。
もし仮に、第3図の前に「△8六歩、▲同歩」の2手が入っていれば、下記の問題図の局面になります。



△9七角打、▲同 香(99)、△5九飛打、▲8八玉(79)、△8七銀打、▲同 金(78)、△7八金打、▲同 玉(88)
△6九馬(58)、▲6七玉(78) 、△5八飛成(59)
   (SeoTsume1.2 探索局面数31274  思考時間0秒)



△9七角打の捨て駒で華麗に詰みます。他にも、初手△6九飛打などでも詰みます。
「△8六歩、▲同歩」に代えて、「△8六歩、▲同銀」が事前に入っていても、やはり簡単に詰みます。

問題は、どのタイミングで△8六歩の突き捨てを入れたら良いか、ということです。
私が当時、実戦で指していたときは、第1図のあたりで入れていました。
しかしそうすると、先手も危険を察して、富岡流にしないで従来の定跡(飛車を4九か6九に逃げる変化)を選んできて、こちらが期待する局面にはなりませんでした。
従来の穏やかな定跡になると、余分に渡した一歩が▲7四歩や▲1三歩の厳しい手に代わってしまい、なかなか勝てず、次第に「富岡流」への挑戦は選ばなくなっていきました。

いまあらためて検討すると、第1図でなく、第2図の局面でも△8六歩は利きそうですね。(→参考図)



しかし、△8六歩、▲同歩、△4九馬、と進んだ局面で、▲7四桂としないで▲6七銀と金取りを受けておいて先手優勢(技巧2で先手プラス800点前後)のようですので、やはり結論は変わらないようです。

以上のように、今回は奏功しませんでしたが、従来の定跡(特に古い定跡)を将棋ソフトを使って洗いなおしてみると、新たな発見で結論がひっくり返る可能性があるかもしれません。


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