脊尾詰ダウンロード 将棋所対応版

今週の詰み筋 (連載 Vol.8) 2017.6.25

今回は藤井聡太四段が28連勝の最多タイ記録を達成した、第67期王将戦1次予選藤井聡太四段vs澤田真吾六段戦(2017年6月21日対局)を採り上げます。

戦型は角換わり腰掛け銀となり、△澤田六段が昨年度の升田幸三賞を受賞した「4二玉・6二金・8一飛型」(受賞者は同門の千田六段)に構えたのに対し、▲藤井四段はいまや旧型とも言えるノーマルな5八金型で対抗しました。



第1図は先手にとって方針を決める分岐点と言えます。攻め合いを目指すならば▲2五歩や▲4七金が有力な手になりますが、本局では藤井四段は▲4五歩と突いて受けに回る方針を選択しました。

第1図以下、実戦の進行は、
    ▲4五歩 △6五歩 ▲同 歩 △7五歩 ▲4六角 (第2図)



第1図からの▲4五歩に対し、△澤田六段としては仕掛ける前に△3一玉の一手を入れたかったところだと思いますが、それだと先に▲4六角と打たれて指しにくくなるため、4二玉型のままで△6五歩と仕掛けました。

それでも藤井四段は▲4六角と打ちました(第2図)。相手が仕掛ける前に▲4六角(△6四角)と打って相手の仕掛けを牽制する指し方は角換わりの将棋では頻繁に現れるのですが、仕掛けて来た後に▲4六角と打つのは斬新な指し方に思えます。このあたり、既存の概念に捕らわれない藤井四段らしさが出ていると言えるのではないでしょうか。

第2図においても△3一玉とすると、▲6七金右と上がられて先手陣が手厚くなってしまうため、△澤田六段は攻めを継続します。

第2図以下、実戦の進行は、
    △9五歩 ▲同 歩 △6五桂 ▲6六銀 △7六歩 ▲6三歩 △7二金 ▲7三歩 △7一金 ▲6五銀右 △同 銀 ▲同 銀 (第3図)



長手数進めましたが、藤井四段は▲6三歩と▲7三歩の2本のくさびを立て続けに打ち込んだ後、6五の桂馬を取り切って駒得になりました。

第3図で自然な手は△6六角と打つ手です。△6六角は、次に9九の香取りと△5五銀で角を取る手の2つの狙いを持っていますので、先手は結構困っているように見えます。△6六角に対しては▲7二銀と攻め合われて自信が持てなかったのかもしれませんが、自然な△6六角が打てないのでは、後手が苦しい局面と言えそうです。

第3図以下、実戦の進行は、
    △3九銀 ▲3八飛 △2九角 ▲3九飛 △6五角成 ▲5六銀  (第4図)



後手は△3九銀のB面攻撃から△2九角と打ち込み、馬の威力で粘りに出ましたが、藤井四段は▲5六銀と手厚く銀を打ち、中央の勢力圏をガッチリと確保しました。

第5図は、第4図から9手進んだ局面です。



第5図以下、藤井四段は▲6四角(やはりこのラインに角を打つのが急所)と打ち、△3一玉の早逃げ(ここでこの一手が必要なのはつらい)に対し、▲4四歩と突いた手が急所中の急所で、先手の寄せが筋に入ってきました。



第5図から20手余り進んで、第6図。すぐに見える手は▲4三歩成ですが、それだと△4七歩と打たれてしまい、後手玉を寄せるのは意外に大変です。

第5図以下、実戦の進行は、
    ▲6二歩成 △同 金 ▲同桂成 △7五香 ▲5二成桂 △7七銀  (問題図)

▲6二歩成とこちらの歩を成るのが好手で、決め手となりました。もし同様に△4七歩と打って来たら、▲5二と、△同金、▲7四馬とした手が5二の金取りになるのが、6三の歩を成り捨てた効果です。澤田六段は△7七銀と打ち、形を作りました。



さて、問題図。いったん▲7七桂と銀を1枚補充してから詰めようと考えてしまいがちですが、藤井四段は「そんな邪道な指し方をしては、詰将棋解答選手権三連覇の名が廃る」とばかりに、一気に即詰に討ち取りました。

【問題図からの詰め手順】
    ▲4一成桂 △同 飛 ▲3二金 (まで、投了) △同 玉 ▲4三歩成 △同 飛 ▲同飛成 △同 玉 ▲4四銀打 △5二玉 ▲4二飛 △同 玉 ▲4三銀打 △5一玉 ▲5二金 まで15手詰
   (SeoTsume1.2 探索局面89588  思考時間0秒)



見事28連勝を達成した藤井聡太四段、「実績」はまだまだこれからタイトル獲得を積み上げていくことになりますが、「実力」は既に全棋士中ナンバーワンの域に到達したと言っても過言ではないでしょう。本局を見ても、余力を残して勝っているような印象があります。

脊尾詰ダウンロードホームに戻る
パナソニック将棋部ホームに戻る
inserted by FC2 system