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今週の詰み筋 (連載 Vol.9) 2017.7.8

今回は趣向を変えて、内輪ネタですみませんが、パナソニック将棋部の森信雄七段指導40周年記念行事での席上対局で、山口絵美菜vs木戸彰戦(2017年7月1日対局、角落)を紹介します。

この席上対局の前に、イベント参加者によるスイス式トーナメント戦が開催されて、4勝1敗の好成績だった3名(加藤さん、木戸さん、林社長)の中から抽選(あみだくじ)を引いて、木戸さんがゲスト棋士の山口絵美菜女流1級との記念対局を引き当てました。私自身は5勝0敗で1位だったのですが、「あんたは勝ち過ぎたので対象外」とのことで、たいへん無念でありましたが大盤解説の聞き手役に回りました。

 

対局者の木戸彰さんはパナソニック将棋部の職域団体戦メンバーの常連で、棋風は居飛車党で攻守にバランスの取れた将棋です。休日には地元の滋賀県で子供相手の将棋教室で指導しているとのことです。棋力はアマチュア二段〜三段くらいで、今回は角落ちの手合いで山口絵美菜女流1級に挑むことになりました。



第1図、木戸さんは居飛車か振り飛車か態度を決めずに指していますが、玉の囲いが遅れているのが気になるところです。絵美菜女流はここをチャンスとみて△7五歩と積極的に仕掛けていきました。
△7五歩に対しては、自然に▲同歩と取って以下、△6四銀に▲6八角と引いて、▲4六角の筋を見せながら後手の銀の進出を牽制する指し方も有力でしたが、本譜は▲5五歩から飛車を5筋に振って中央から反撃する手段を選びました。

第1図以下、実戦の進行は、
  △7五歩 ▲5五歩 △同 歩 ▲5八飛 △7六歩 ▲同 銀 △5二飛 ▲6五歩 △5六歩 ▲5五歩 △7四銀 ▲6六角 △7五歩 (第2図)



第2図では本譜の▲7五同銀は当然の一手に見えましたが、これが良くなかったようで、以下△6五銀と中央に銀を活用されて下手の陣形が乱れてしまい、このあと苦戦に陥ってしまいました。第2図では▲6七銀と形良く引いておき、△6五銀に対しては▲7五角と王手で出る手を残しておけば、この後▲5六銀と歩を払う手も生じて、下手が指しやすかったようです。

第2図以下、実戦の進行は、
  ▲7五同銀 △6五銀 ▲8八角 △7二飛 (第3図)



第3図、7五の銀取りの受け方が難しく、このままあっさりと絵美菜女流に押し切られてしまうのでないかと心配されましたが、木戸さんは▲9六歩!という受けを捻り出しました。

第3図以下、実戦の進行は、
  ▲9六歩 △8六歩 ▲9七角 (図面省略)

▲9六歩に対しては、王手飛車を承知で△7五飛で銀を取ってしまう手も有力でしたが、本譜は△8六歩と手筋の突き捨てで厳しく迫ります。対して、木戸さんはまたもや▲9七角!と王手飛車を含みにした受けの妙技を披露し、観衆を魅了しました。

局面は20手ほど進んで、第4図。絵美菜女流の必死の食いつきに木戸さんが辛抱強く耐えるという展開が延々と続きます。



第4図では、△7五銀もしくは△7四桂かと、大盤で森信雄七段は解説されていましたが、絵美菜女流は△7七銀!の只捨てに出ました。第3図での木戸さんの受けの妙技に負けじと、今度は攻めの妙技でプロの芸を披露しようということで、局面の盛り上がりは最高潮に達しました。

第4図以下、実戦の進行は、
  △7七銀 ▲5三角成 △5五飛  (図面省略)

絵美菜女流の鬼気迫る△7七銀の勢いに押される格好で、木戸さんは只で取れる銀を取らずに▲5三角成としましたが、△5五飛と角銀両取りに回られてしまい、木戸さんは飛び上がりました。木戸さんが積み上げてきた受けの包囲網は破れ、形勢は一気に上手が勝勢となりました。

△7七銀に対しては平凡に▲同角と取り、以下△8七飛成に▲7八銀とガッチリ受けておいて駒得を主張すれば、下手が優勢でした。絵美菜女流の読み筋は△8七飛成ではなく△6五桂打の両取りで迫るというものでしたが、以下▲同歩△同桂に▲7六銀と受けて上手の攻めは続かず、下手勝勢でした。



局面は10手ほど進み、第5図で絵美菜女流が指した△6六銀成が華麗な捨て駒で、決め手になりました。以下、▲同金の一手に△5七角が痛打で、下手は粘りようがなくなってしまいました。



第6図から、絵美菜女流は緩むことなく、下手玉を一気に寄せ切りました。

第6図以下、実戦の進行は、
  △5七同馬 ▲同 玉 △5六歩 ▲6六玉 △5四桂  まで上手の勝ち

いつもなら、第6図から何手詰で脊尾詰何秒でした、となるところですが、△5六歩に▲6八玉とすれば即詰みはないため、今回は脊尾詰の出番はありません。

本局は、第1図の仕掛けから終局に至るまでの一貫した山口絵美菜女流1級の強気な攻めが印象に残りました。木戸さんも受けの妙技を見せながら必死に耐えて、あと一歩で辛抱が実るところでしたが、最後は絵美菜女流の勢いに押された格好になりました。双方持ち味を発揮した好局だったと思います。

山口絵美菜女流vs木戸彰戦の棋譜

 


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