今回は10月9日に行われた第3期叡王戦 四段予選準決勝 佐々木大地四段 vs 藤井聡太四段を紹介します。
▲2六歩△8四歩の出だしから、お互いに飛車先の歩を伸ばして、相掛かりの将棋となりました。従来は、「飛車先の歩交換3つの得あり」で、すぐに飛車先の歩を交換していましたが、第1図のようにお互いに歩交換を保留し合うのが最近の流行のようです。飛車先の歩を交換すると、その時点で飛車の位置(▲2八飛か▲2六飛か▲2五飛か)を確定しないといけないので、選択を先延ばしして、相手の形を見てから決めようという意図です。
第1図で、次に▲7七角の飛車先の歩交換拒否を見せられるに至り、ようやく、飛車先の歩を交換しました。
第1図以下、実戦の進行は、
△8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 (途中図) △2三歩 ▲2六飛 △8二飛 ▲8七歩 (第2図)
第2図まで、先手の浮き飛車(▲2六飛型) vs 後手の引き飛車(△8二飛型)の形に落ち着き、第2図以降は、昔からの定跡の相腰掛け銀に進行していきました。
第3図の相掛かり腰掛け銀は、30年以上前から指されていた形で、温故知新と言えます。若手どうしの対戦でこの形が出現したのは、少し意外な感じがします。
第3図以下、実戦の進行は、
▲7五歩 (途中図) △6三銀 ▲1五歩 △7五歩 ▲1四歩 △1八歩 ▲同 香 △1七歩 (第4図)
第3図から、▲7五歩と突いて、戦いが始まりました。(途中図)
▲7五歩は、その昔(30年くらい前)、芹沢博文九段が「この歩を突いて、幸せになった者はいない。」と評していた記憶があります。その理由は、自分の玉に近い歩を突いて、将来的に桂馬を渡したときの△7六桂のキズを、自ら作る手であるからです。
それでも、△7五同歩と取ってしまうと▲7四歩と打たれて困るので、△6三銀と引いて辛抱し、▲1五歩と端歩を突いて、戦線拡大しました。第4図の△1七歩を▲同香と取ってしまうと、角交換して△3九角の両取りがあるので、先手は第4図から▲2四歩と合わせていきました。
第4図から10手あまり進んだ局面が第5図です。実戦はここで△2三歩と打ちましたが、▲3四飛と横歩を取られた後、この飛車に横方向に暴れまわられて、後手が苦戦に陥りました。
第5図では、△6五桂と跳ねて攻め合いを目指すのが有力で、これなら後手がやや有利だったようです。(参考図、技巧2で検討)
進んで、第6図は、84手目の局面です。ここから▲佐々木四段は一気に寄せ形を作って行きました。
第6図以下、実戦の進行は、
▲5三香成 △同金右 ▲同桂成 △同 金 ▲同角成 △同 玉 ▲5六香 (第7図)
5三の地点で清算した後、第7図の再度の▲5六香打が非常に厳しく、後手玉は寄り筋となりました。
数手進んで、問題図1は、△3六馬と歩を取って、馬を攻防に利かした局面です。
実はこの手は受けになっておらず、後手玉には即詰みが生じていました。
【問題図1からの詰め手順】
▲7三飛成 △同玉 ▲6五桂 △8三玉 (途中1図) ▲8四金 △同玉 ▲7三銀 △7四玉 ▲6四金 △8三玉 ▲8二銀成 △同玉 (途中2図) ▲7三金 △7一玉 ▲7二歩 △同馬 ▲同金 △同玉 ▲7三飛 △8二玉 ▲7一角 △8一玉 ▲8三飛成 △7一玉 ▲7二歩 △6二玉 ▲7三龍 △6一玉 ▲7一歩成 まで29手詰
(SeoTsume1.2 探索局面773150 思考時間2秒)
▲7三飛成 △同玉とした局面は、玉が広そうに見えるので、小駒だけでは不詰感が漂いますが、▲6五桂と打って、網を絞ります。
途中1図から、さらに▲8四金と捨てるので、ますます心細く思えますが、飛車を入手して(途中2図)、▲7三金で詰み形となります。
実戦は、秒読みに追われた佐々木四段はこの詰みを読み切れず、▲6四銀と詰めろをかけました。(問題図2)
▲6四銀も自然な一手に見えますが、逆に先手玉に即詰みが生じてしまいました。
【問題図2からの詰め手順】
△5八馬 ▲同 玉 △2五角 ▲4七角 (途中1図) △6六桂 ▲同 歩 △4七角成 ▲同 玉 △6九角 ▲5八桂 △3八銀 ▲3七玉 △2七と ▲3六玉 △5八角成 ▲4五玉 (途中2図) △4一香 ▲4四角 △3四金 ▲5四玉 △4四金 ▲5三玉 △4三金 ▲5二玉 △4二金 ▲5一玉 △8一飛 まで27手詰
(SeoTsume1.2 探索局面434510 思考時間1秒)
実戦は、途中1図のところで、△3六角に▲4七金と合駒をして、以下、△同角成、▲同玉、△3五桂まで、藤井四段の勝ちとなりました。
途中2図となってみると、直前に打った▲6四銀が、飛車の横利きを止める悪手となっています。
最後は、7二の玉や8二の飛車まで活躍して、詰め上がりとなります。
本局は、藤井四段が土壇場で放った△3六馬(問題図1)が素晴らしい勝負手で、佐々木四段の一瞬のミスを誘い、勝因となりました。藤井四段が自玉の詰みに気付いていたのかは不明ですが、詰みを知っていて、それでも△3六馬しか勝つ可能性がないと判断して指したのなら、大変な勝負師ですね。