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今週の詰み筋 (連載 Vol.15) 2017.12.19

今回は12月15日に行われた第11回朝日杯将棋オープン二次予選 屋敷伸之九段vs藤井聡太四段戦をご紹介します。

居飛車党の両者によるこの将棋は、相矢倉の出だしから、先手が早めに▲2五歩△3三銀と形を決めてから、▲3八銀と上がりました。



第1図の▲3八銀の形が、急戦矢倉を得意とする屋敷九段独特の一手です。この後、▲3七銀から▲4六銀の「早繰り銀」、または▲2七銀から▲2六銀の棒銀を志向しており、ここ数年、実戦例が増えている形です。

局面は進んで第2図。本来は守りの銀となるべき左の銀を、▲6六銀で前線に繰り出していきました。

   

第2図のように、2枚の銀を前線に進めて攻勢をかける指し方を「屋敷流二枚銀戦法」と言い、自身の著書を出版されています。2014年の後半から屋敷九段が頻繁に指されている戦法で、この3年間で屋敷九段だけで30局近い実戦例があるようです。

屋敷九段がこの戦法を指し始めた当時は、現在ほど急戦矢倉が指されておらず、玉の囲いが弱いという理由で敬遠される傾向がありました。しかし藤井猛九段だけは、「この戦法に目を付けるとは、屋敷九段は天才だ」というようなことを言われました。序盤の達人どうし、何か通じるものがあったのでしょうか。

ただし、通常の「屋敷流二枚銀戦法」は、前述したように、右の銀が▲4六か▲2六にあり、本局のように▲4七銀との組み合わせは非常に珍しい形です。屋敷九段の新研究なのでしょうか。

第2図からは、後手は8筋の歩を角で交換して、手順に△4二角と引きました。(第3図)

  

第3図以下、実戦の進行は、
▲5五歩 △同 歩 ▲同 銀 △7五歩 ▲4五歩 △5二金 ▲2四歩 △同 歩 (第4図)

  

▲5五歩は「屋敷流二枚銀戦法」で頻繁に登場する手で、銀を中央に進出させるのと同時に、持駒に一歩を加えることで攻めの幅を広げる狙いがあります。

藤井四段も負けじと△7五歩と突いて、攻め合いを目指しました。△7五歩、▲同歩、△同角となれば、次に5七へ角を成り込む手が生じます。

第4図以下、実戦の進行は、
▲4四歩 △同 歩 ▲同 銀 △4三歩 ▲3三銀成 △同 角 ▲同角成 △同 桂 (第5図)

  

7筋でも火の手が上がり、自陣のまとめ方が難しくなった先手は、4筋で銀交換を迫って行きましたが、△4三歩と打ったのが冷静な対応でした。

第5図となってみると、先手陣は5七の地点のスキが目立つ格好です。将来、後手に桂馬を渡すと△5七桂が激痛です。△4五桂から△5七桂不成の筋も見えます。本局における屋敷九段の趣向であった▲4七銀の形が機能していません。それだけ、藤井四段の対応が見事だった、と言えるでしょう。


進んで、第6図は、50手目△8八歩の局面です。

  

△8八歩がタイミングのよい利かしでした。桂馬を渡すと△5七桂が生じるため、先手もこのタイミングであれば、▲同金と応じるのはやむを得ません。壁金の悪形となり、先手陣はさらに弱体化してしまいました。


数手進んで、第7図の▲6一角は「屋敷流二枚銀戦法」で頻出の急所の角打ちで、たいへん厳しい手です。しかし。。

 

第7図以下、実戦の進行は、
△5一銀 ▲2三飛成 △同 金 ▲4三角成 △5七角 (第8図)

第7図における▲5二銀と▲8三銀の2つの狙いを同時に受けた△5一銀に対して、先手は勝負と▲2三飛成と飛び込んで、後手陣に迫りました。

しかし、△5七角(第8図)で、先手玉に一足早く「詰めろ」が掛かりました。第6図で打った△8八歩の一手が良く利いています。もし第8図のタイミングで△8八歩だと、当然ながら手抜かれてしまい、▲5二歩で逆に先手の一手勝ちになるところです。


20手ほど進んで、第9図。後手の持ち駒は飛車と歩だけなので、先手玉を寄せ切るのはまだ大変そうに見えますが、藤井四段は一気に収束しました。



第7図以下、実戦の進行は、
△3九角成 ▲同 玉 △4六飛 ▲7五角 (問題図)

△3九角成と角を切った後の△4六飛が見えにくい手ですが、これが決め手となりました。▲7五角は攻防の一手ですが、受けになっていませんでした。



【問題図からの詰め手順】
△2八銀 ▲3八玉 △2九銀不成 ▲3九玉 △4九飛成 ▲同 玉 △3八金 ▲5九玉 △5八歩 ▲同 玉 △5二飛 ▲5三歩 △同 飛 ▲同角成 △5七歩 ▲5九玉 △4七桂打 ▲同 銀 △同桂不成 まで19手詰
  (SeoTsume1.2 探索局面107602  思考時間0秒)



自陣の飛車(4二飛)を△5二飛として活用し、▲7五角の先手陣への利きを離して、詰め上がりとなりました。


本局に勝った藤井四段は、同日午後に続いて行われた松尾歩八段戦にも勝利して二次予選を突破し、本戦トーナメント入りを果たしました。16人が参加する本戦トーナメントの決勝戦は来年2月の予定。藤井四段のデビュー以来の通算成績は、この日の2勝を加えて、54勝9敗となりました。

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