脊尾詰ダウンロード 将棋所対応版

今週の詰み筋 (連載 Vol.19) 2018.1.27

今回は、1月22日に行われた第59期王位戦予選谷川浩司九段vs大橋貴洸四段戦をご紹介します。

この対局は、千日手の指し直し局です。大橋四段は、2016年10月にプロ入りした若手で、蛍光ブルーの派手な背広での対局姿が印象的です。今年度の勝数ランキングが全棋士中第2位ということで、売り出し中の若手が強豪谷川九段に挑むという構図です。

序盤は、角換わり腰掛銀の定跡形で進みました。後手の大橋四段が、流行の6二金8一飛型に構えたのに対し、先手の谷川九段は従来のオーソドックスな陣形で対抗しました。

第1図は40手目、大橋四段が△6五歩と突いて、戦端を開いた局面です。



第1図以下、実戦の進行は、
▲3五歩 △6六歩 ▲4五桂 △4二銀 ▲3四歩 (途中図) △4四歩 ▲3三桂成 △同 桂 ▲6六銀 (第2図)



第1図では、平凡に▲6五同歩または▲6八飛として受けに回る指し方も十分考えられますが、谷川九段は棋風どおりに▲3五歩からの攻め合いを志向しました。後手がまだ△4四歩を突いていない点に着目し、▲4五桂と軽く桂馬を跳ねてから、▲3四歩と取り込みます(途中図)。

いつまでも3四に歩の拠点が残っては、後手としても攻め合いに支障をきたす(渡した駒を3三に打ち込まれる手が厳しい)ため、途中図から△4四歩と突いて、先手の攻め駒を清算しに行きましたが、▲3三桂成、△同桂のあと、すぐに桂馬を取り返さないで▲6六銀と戻したのが、上手い呼吸でした(第2図)。

▲3三歩成は先手の権利なので、都合の良いときに実行しようということです。すぐに実行すると、△3三同銀と応じられて、銀が受けに働いてきて、後手の玉頭が手厚くなるという意味合いがあります。また後手からすると、いつ▲3三歩成とされるかを常に考えないといけないので、相手の読みにプレッシャーを与えるという心理的な効果もあるでしょう。

この後、終盤まで40数手の間、▲3三歩成を保留し続けたことが、最後の華麗な即詰みへとつながる伏線となりました。


局面は進んで、第3図。▲3三歩成は依然として、保留した状態です。後手は、7二の馬で抑え込まれて、自陣の飛車が攻めに使えなくなってしまったのが痛いところです。



第3図以下、実戦の進行は、
△6六桂 ▲同 銀 △同 歩 ▲2四歩 △同 歩 ▲2三歩 (途中図) △6七銀 ▲6四歩 △5六銀成 △同 歩 (第4図)

 

後手は、先手の守りのかなめである7八の金を目掛けて△6六桂と打ち込んでいきました。受けていてはきりがないと見た先手は、▲同銀で銀桂交換をして、桂馬を持ち駒に加えました。そして、2筋を突き捨てた後、▲2三歩と急所に歩を垂らしました。(途中図)

途中図から△同金と目障りな歩を払うと、▲3五桂と打たれてしまい、先手の攻めをさらに勢いづかせる結果となります。ここに至って、▲3三歩成を保留しておいた効果が現れてきました。後手の4二の銀が釘付けの状態で、先手からの2筋の攻めが非常に厳しくなっています。特に、2二の地点が急所となっており、駒を蓄えてから2二へ打ち込むと一気に詰んでしまう可能性すらあります。

途中図から、後手は△6七銀と打ち込んで寄せ合いにきましたが、先手は冷静に▲6四歩と叩いて、さらなる駒の入手を図りました。谷川九段の狙いは、後手の攻めをしのぎながら持ち駒を蓄えて、後手の寄せが一段落した瞬間に後手玉を一気に仕留めることです。


局面は進み、問題図は後手が持ち駒の歩を6六に垂らした局面です。先手玉はまだ詰めろではありませんが、▲3五桂などと下手な寄せをすると、△3八飛の王手で抜かれてしまうので、注意が必要です。

「光速の寄せ」を得意とする谷川九段は、この局面から長手数の詰みに討ち取りました。



【問題図からの詰め手順】
▲2二銀 △同 金 ▲同歩成 △同 玉 ▲3三歩成 (途中図) △同 銀 ▲2三銀 △1三玉 ▲1四銀成 △2二玉 ▲2三成銀 △同 玉 ▲3五桂 △3二玉 ▲4三角 △同 銀 ▲同桂成 △2二玉 ▲3三成桂 △同 玉 ▲3四歩 △2二玉 ▲3三金 △1三玉 ▲2二銀 △1四玉 ▲1五歩 △2五玉 ▲3六銀 (投了図) △2六玉 ▲3八桂 まで31手詰
  (SeoTsume1.2 探索局面834723  思考時間3秒)

 

実戦は、この詰み手順どおりに進行し、詰め上がり2手前の▲3六銀までで投了となりました。

途中図でやっと、▲3三歩成と桂馬を取る手を実行しました。第2図(49手目の局面)から実に44手の時間差をかけてから桂馬を取ったことになります。

本局では、先手の谷川九段の、終盤の寄せまでを計算に入れた、緩急自在の指し回しが印象的でした。

脊尾詰ダウンロードホームに戻る
パナソニック将棋部ホームに戻る
inserted by FC2 system