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今週の詰み筋 (連載 Vol.20) 2018.2.3

今回は、2月1日に行われた第76期順位戦A級10回戦豊島将之八段vs三浦弘行九段戦をご紹介します。

この日はA級順位戦のラス前ということで、全5局一斉に行われました。豊島八段はA級初参加ながらここまで6勝2敗で単独トップを走っています。この対局に勝てば、名人挑戦に向けて大きく前進します。逆に、三浦九段はここまで3勝5敗と黒星が先行していて、順位が11位ということもあり、この対局に敗れるとB1への降級が決まってしまいます。双方にとって、重要一局です。

豊島八段の先手で横歩取りになり、後手の三浦九段が「横歩取り△3三桂戦法」を選択しました。昔からよくある戦法ですが、近年の流行形からは外れた、やや珍しい選択と言えます。△3三桂戦法は超急戦になる変化もありますが、豊島八段が穏やかな指し方を選んだため、持久戦へと進みました。

第1図は48手目、三浦九段が△8四歩と突いて、銀冠への組み換えを目指した局面です。後手が美濃囲いに構えているのが現代的で、以前は△7二玉△6二金型の金無双が定番でした。昔からの定跡形に現代的な感覚をミックスすることで、新たな可能性が生まれて来るということでしょうか。



第1図以下、実戦の進行は、
▲8五歩 △同 歩 ▲同 桂 △8三銀 (途中図) ▲5五角 △7二金 ▲3六飛 △4二角 ▲7九金 (第2図)



第1図まで、先手陣は飽和してきており、動かす駒が難しくなっています。後手の銀冠が完成する前にということで、▲8五歩と合わせて桂馬を跳ねて行きました。途中図の△8三銀に代えて△8四歩ならば▲9三桂成として、端へ殺到しようということです。後手陣は端から攻められると6二の銀が壁銀になっていて逃げ道がなく、危険を察知した三浦九段は△8三銀として端攻めへ備えました。

先手もこれ以上端から攻めるのは戦力が足りないため、矛先を変えて▲5五角から▲3六飛で3筋に揺さぶりをかけました。▲3三角成を防いで△4二角と受けた手に対して、今度は一転して▲7九金と自陣を引き締めて、相手に手を渡します(第2図)。

お互いに指し手の難しい神経戦が、第2図の後もしばらく続いて行きました。自陣を整備しながら、相手陣の隙を伺います。


局面は進んで、第3図。後手は美濃囲いのままだと、先手の2八角に睨まれて危険と見て、5二玉の中住まいに組み替えました。後手は桂馬を得しましたが、歩切れであり、逆に先手は歩をたくさん持っています。先手陣はコンパクトにまとまっており、形勢のバランスは取れているようです。



第3図以下、実戦の進行は、
▲5六飛 △同 飛 ▲同 歩 △2六歩 ▲同 歩 △3六桂 ▲3九角 △4八桂成 ▲同 角 (途中図) △4五桂 ▲4六歩 △4四銀 ▲4五歩 △同 銀 (第4図)

 

第3図では、後手は次に左右の桂馬を中央に跳ねて、先手陣の弱点である5七の地点へ殺到する筋を狙いにしています。先手陣は飛車の打ち込みの隙がなく、飛車交換に強い陣形になっていますので、▲5六飛とぶつけて飛車交換を挑みました。

飛車交換後、後手は△3六桂の角銀両取りをかけて、途中図で駒の損得は後手の銀得に広がりました。しかし後手は依然として歩切れが痛いところで、もし持駒に歩が一枚でもあれば、△4五桂から△5七歩の筋が生じて後手が勝勢になるところです。

途中図から、後手は遊んでいる4二の角を働かせるべく、△4五桂から△4四銀として、桂馬を犠牲に自陣の駒を捌いていきます。第4図に至り、先手陣に銀でプレッシャーをかけつつ、歩切れを解消することが出来ました。


局面は進んで、第5図。形勢は、飛車2枚を手中にした後手の三浦九段が有利に傾いています。第5図では△4五銀と桂馬を外して、自陣の憂いを解消しながら先手の玉頭に迫る手も有力でしたが。。



第5図以下、実戦の進行は、
△2九飛 ▲3九金 △1九飛成 ▲8三歩成 △同 銀 ▲4一銀 △同 玉 ▲6二角成 (途中図) △3六桂 ▲6三馬 △5二銀 ▲5一金 △同 玉 ▲7三馬 (第6図)

 

第5図から、後手は持駒の飛車を2九に打ち込んで、銀を入手した後の△4九銀を含みに、攻め合いを目指しました。対して先手は、一旦▲3九金で飛車取りに当てて、1九の香車を取らせました。この判断が後の王手飛車取りの伏線になりました。

途中図から、後手は△3六桂と打って、先手陣への攻勢を強めました。対して、▲6三馬と引いた手が好手で、以下、後手がどう応じても、馬による王手龍取りを逃れることが出来ません。本譜の▲5一金の筋もうっかりしやすいところで、第6図で王手龍取りが実現して、形勢は逆転。先手の豊島八段が優勢になりました。


局面は進み、問題図は▲5三龍の王手に対して、後手が5一にいた玉を4一に逃げた局面です。一手争いの最終盤で、先手玉と後手玉共に詰むや詰まざるやという、際どい局面です。



【問題図1からの詰め手順】
▲3三桂 △3一玉 ▲5一龍 △2二玉 ▲2一龍 △3三玉 ▲3四銀 △同 銀 ▲同 歩 △4四玉 ▲5五銀 (途中図) △5三玉 ▲5一龍 △6三玉 ▲5四銀 △7三玉 ▲5三龍 △6三桂 ▲同銀成 △同 香 ▲6五桂 △8二玉 ▲7二桂成 △同 玉 ▲7三桂成 △8一玉 ▲8二成桂 まで27手詰
  (SeoTsume1.2 探索局面90163  思考時間0秒)

 

▲3三桂以下、平凡に龍で追い回します。途中図の▲5五銀打の捨て駒が好手で、王手龍取りをかけた1九の馬がここに来て再度、働いてきました。以下、後手玉を左辺に追い込んで行き、最後は馬の利きを生かしてピッタリと詰め上がります。


実戦では、1分将棋の秒読みの中、上記の詰み筋を発見出来なかった豊島八段が▲2四桂と詰めろで迫った局面が、問題図2です。先手陣は左辺の逃げ道が広く、一見すると詰みはなさそうに見えますが、どうでしょうか。



【問題図2からの詰め手順】
△4八桂成 ▲5七玉 △5六銀 ▲同 玉 △3六飛成 ▲6七玉 △4五角 ▲7七玉 (途中図) △6六龍 ▲同 玉 △6五金 ▲7七玉 △7六金 ▲同 玉 △7五金 ▲7七玉 △8五桂 ▲8八玉 △8七歩 ▲同 玉 △8六歩 ▲9六玉 △8七銀 まで23手詰
  (SeoTsume1.2 探索局面322149  思考時間1秒)

 

途中図で、△6六龍と捨ててしまうのが好手で、以下、持駒の金でしっかりと上部を押さえて、先手玉の脱出を防ぎます。実戦では、初手△4八桂成に▲同玉と応じたため、△5八金以下短手数で詰んで、先手の投了となりました。

本局は、序盤から中盤にかけての息詰まる攻防戦と、最終盤のお互いに詰むや詰まざるやの局面が印象的で、形勢も二転三転した熱戦でした。豊島八段の名人挑戦と三浦九段の残留争いは、ともに最終局へ持ち越しになりました。

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