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今週の詰み筋 (連載 Vol.23) 2018.5.19

今回は、5月18日に行われた第31期竜王戦ランキング戦5組船江恒平六段vs藤井聡太六段戦をご紹介します。

この対局は、5組トーナメントの準決勝で、藤井六段が勝って決勝に進出すれば、規定により七段に昇段します。史上最年少の七段昇段がかかった一局ということで、将棋以外の一般メディアからも対局前から注目されていました。

船江六段の先手で、戦型は角換わり腰掛銀になりました。第1図は大山升田の時代からよく指された、先手棒銀の定跡形ですが、通常の定跡と異なるのは、▲7八金△7三銀の2手の交換が省略されている点です。▲7八金を省略することにより、後手の飛車のコビンが空いた状態で一手早く攻める狙いで、船江六段があらかじめこの重要な一局に備えて用意してきた意欲的な作戦と言えます。



第1図以下、実戦の進行は、
△4五角 ▲7八金 △1四歩 ▲2四歩 (途中図) △同 歩 ▲同 銀 △2七歩 ▲4八飛 △2四銀 ▲5五角 (第2図)

 

第1図では、△5四角と打つのが、通常(▲7八金と△7三銀が入った形)の定跡ですが、藤井六段は先手の作戦を咎める意味で△4五角と打ってきました。△6七角成は許せないので、やむなく▲7八金と受けましたが、そこで△1四歩と突いて催促し、1五の銀の進退を問いました。

△1四歩に対し、先手は今さら▲2六銀と引いてしまっては、△7三銀以下後手陣が好形になっていくので、前進あるのみと▲2四歩と突いていきました(途中図)。

途中図では、本譜の△2四同歩の他に、△1五歩と銀を取ってしまう手も有力でした。以下、▲2三歩成、△2七銀と進みますが、そこでまた▲3二とで金を取る手と、▲4八飛と逃げる手とあり、本譜の変化との優劣の比較が難しいところでした。

本譜は後手が銀得に成功しましたが、直後に▲5五角の飛香両取りを放ち(第2図)、形勢はまだ優劣不明です。


第2図以下、実戦の進行は、
△6四歩 ▲1一角成 △3三桂 (途中図) ▲2一馬 △4二金 ▲2三歩 △2八銀 (第3図)

 

第2図で飛車取りをどう受けるかで、つい△7三銀または△7三桂としてしまいがちですが、軽く△6四歩と突いたのが柔らかい受けの好手でした。△6四歩は、後で▲4六歩と突かれたときに△6三角と深く引く余地を作っています。船江六段も△6四歩を軽視されたのかもしれません。

第2図では、▲5五角の前に、先に▲4六歩と突いて、△5四角の形に限定された方が良かったかもしれません。あとで▲5六香などで角を目標に攻める手が生じるからです。

途中図から、先手は▲2一馬から▲2三歩と垂らして、と金攻めを狙いました。後手のとっての強みは、6一金、7二銀の形がちょうど、美濃囲いのような陣形になっており、左辺に逃げ出したときに自然と美濃囲いの堅陣に収まる点です。

先手としては、第3図からのと金攻めが思ったほど戦果が挙がらなかったのが誤算だったようです。途中図では、▲4六歩、△6三角、▲1二馬して、次に▲3四馬と引いて使う形を目指したほうが良かったようです。

第3図以下は、先手のと金攻めをかわしながら△2五桂から△3五銀と捌いた手が先手の居玉に直撃する形となり、後手が優勢になりました。


局面は進み、問題図は▲7三桂と打ち、後手玉に詰めろをかけた局面です。形勢は既に後手が勝勢で、△7二玉や△7三同金と詰めろを防ぐ受けの手でも勝てそうですが、後手はそうした緩い手で満足する棋士ではありませんでした。



【問題図からの詰め手順】
△4八銀 ▲同 金 △同成銀 ▲同 飛 △5八金 ▲同 飛 △同角成 ▲同 玉 △5七銀成 ▲6九玉 △7七桂不成 ▲7九玉 △5九飛 (途中図) ▲6九銀 △同飛成 ▲8八玉 △8九桂成 ▲7七玉 △7八龍 ▲同 玉 △7九成桂 ▲同 玉 △7七香 ▲8八玉 △7八金 ▲9八玉 △8九銀 まで27手詰
  (SeoTsume1.2 探索局面182983  思考時間0秒)

 

問題図では、一見すると、まだ先手玉に詰みがあるように見えませんが、初手△4八銀と打ち込んで守り駒の金をはがした後、△5八金と打ち込んで無理やり飛車を入手すると、詰み形が見えてきます。途中図の△5九飛に対して、6九へ中合をすることにより、▲6六玉と逃げだす余地を作ろうとしますが、合駒に高い駒しかないのが痛いところです。最後は捨て駒で玉を下段に落として詰み上がります。

実戦では、問題図からの△4八銀を見て、即座に船江六段は投了しました。

本局は手数は短かったですが、藤井六段の柔軟な対応力が光った1局でした。次は、ランキング戦5組優勝をかけて、石田直裕五段と対戦します。2年連続の竜王戦決勝トーナメント進出がなるか、注目です。

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