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今週の詰み筋 (連載 Vol.27) 2018.8.11

今回は、8月5日に行われた第4期叡王戦段位別予選九段戦谷川浩司九段vs森内俊之九段戦をご紹介します。

段位別に分かれて行われている叡王戦の予選のAブロックの1回戦で、永世名人対決の重量級の好カードが実現しました。

戦型は、後手の森内九段の注文で矢倉模様の出だしとなる中、先手の谷川九段は米長矢倉の布陣に組み、積極的に仕掛けます。(第1図)



第1図以下、実戦の進行は、
▲3五歩 △同 歩 ▲5五歩 △同 歩 ▲5三歩 (途中図) △2四角 ▲7九玉 △3六歩 ▲3九飛 △9五歩(第2図)

 

「開戦は歩の突き捨てから」ということで、谷川九段は3筋と5筋の歩を立て続けに突き捨ててから5筋に歩を垂らして、手を渡しました。(途中図)

▲5三歩は、いつでも▲5二歩成を見せて、後手の8二飛の動きを牽制するのと同時に、後手の角筋を止めた手です。ならばと、森内九段は△2四角と出て、逆方向から先手陣に睨みを利かせました。

△3六歩(▲同銀なら△4六角)と味良く突き出されて、▲3九飛は利かされた格好(先手の飛車の働きが悪い)で、結果的に3筋の突き捨てを後手に逆用される形になってしまいました。先手は歩切れも痛く、9筋から反撃に転じた第2図は、後手優勢となりました。


局面は進んで、第3図。後手の森内九段が快調に攻めていますが、谷川九段も攻防に利く要所に角(5四角)を設置して、逆転のチャンスをうかがっています。



第3図以下、実戦の進行は、
△9七桂成 ▲同 角 △9五香 ▲6四角 (途中図) △9八香成 ▲4一と △2二玉 ▲3四桂 (第4図)

 

第3図では、じっと△4七飛成と駒を補充しておく手も有力でしたが、▲5五銀と出られてはうるさいと見て、△9七桂成から一気の寄せを狙いました。

先手も、「遊んでいた角ならば」と、角銀交換で刺し違えます(途中図)。途中図からもし△6四同歩だと、▲4四桂、△同銀、▲3四桂とされて、先手の寄せが早くなってしまうので、後手は角を放置して△9八香成と詰めろをかけました。

厳しい状況に追い込まれた先手は、▲4一とで王手をかけました。後手は、と金を取る(△同玉)か逃げる(△2二玉)か迷うところですので、▲4一とは終盤の勝負手です。△同玉も有力でしたが、本譜は△2二玉と逃げました。


第4図以下、実戦の進行は、
△1二玉 ▲5八金寄 △6四歩 ▲4二と (途中図) △8九成香 ▲6八玉 △7六桂 ▲同 角 (問題図)



第4図の▲3四桂は、もし△同銀と桂馬を取られた場合は、▲5五角の王手で角を逃げたあとで、先手玉への詰めろを受けようという意味です。

途中図の▲4二とで、後手玉に詰めろ(▲2一銀以下)がかかり、にわかに局面はきわどい勝負形になってきました。先手玉に詰みがあるかどうか、という局面です。

後手は、先手玉を即詰みに討ち取るか、もしくは先手玉に王手をかけていく課程で5四の角を手順に取るなどして自玉を安全にするか、どちらかを達成する必要があります。

△7六桂は大事な一手で、角を7六に移動させることにより、この後7九に龍が来る形になったときに、龍で7六の角を取る変化が発生します。




【問題図からの詰め手順】
△5六桂 ▲同 銀 △7九角 ▲同 金 △同飛成 ▲5七玉 △5六歩 ▲同 玉 △5五歩 ▲同 玉 △4四金 ▲6四玉 △6一香 ▲6三桂 △同 香 ▲同 玉 △7一桂 (途中図)
▲6四玉 △5五銀 ▲同 銀 △6三歩 ▲6五玉 △8五飛 ▲同 角 △7五龍 ▲5六玉 △5五龍 ▲4七玉 △4六龍 ▲3八玉 △3七銀 ▲2七玉 △2六龍 ▲1八玉 △2八銀成 まで35手詰
  (SeoTsume1.2 探索局面960549  思考時間3秒)

 

問題図から、△7九角と王手する前に、先に△5六桂を打っておくのが急所の一手でした。問題図で△5六桂ならば、▲同銀の一手に限定することが出来ます。

その後の詰み手順は、先手玉を上部に追い立てて入玉まで許した上で(途中図)、その後、再度下段に落としていく手順になります。手順中、△8五飛の華麗な捨て駒が決め手です。

このような難解な詰め手順と、本譜の詰まなかった手順との対比を見ると、かつて米長邦雄永世棋聖がおっしゃった、古典詰将棋を解くのが大事だというのも、納得が出来ます。

本譜は、問題図から△5六桂としないで、単に△7九角と打ち、以下、▲同金、△同飛成、▲5七玉、△5六香としたため、▲同銀とは取ってもらえず、▲4八玉と逃がられて、以下不詰となり、最後は先手の逆転勝ちとなりました。本譜は結果的に詰まなかったのですが、詰ますのを早めにあきらめて、どこかのタイミングで△7六龍と角を取っておく手はあったようです。


本局は、米長流急戦矢倉の熱戦で、後手の森内九段が優勢に進めていましたが、終盤の谷川九段の猛烈な追い込みにより、先手玉が詰むかどうかのきわどい勝負になりました。こういったギリギリの局面が詰むかどうかは、実戦、特に秒読みの中では運に左右される部分もあって、結果的に詰めばツキがあった、詰まなければ今日は勝ち運がなかった、と感じることが多いのが実情だと思います。

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