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今週の詰み筋 (連載 Vol.37) 2019.2.3

今回は、1月28日に行われた第12回朝日杯将棋オープン戦本戦 羽生善治九段 vs 千田翔太六段戦 をご紹介します。2次予選で森内九段と郷田九段を倒して予選突破した千田六段、本戦トーナメント1回戦は本戦シードの羽生九段との対戦となりました。

第1図は、角換わり腰掛銀の最新形です。先手が▲2五歩を保留している理由はよく分かりませんが、▲7九玉を急ぎ、第1図からの△6五歩の仕掛けに▲6九飛を用意している、という意味でしょうか。(2五に桂馬を跳ねる将棋ではないので)



第1図以下、実戦の進行は、
△4四銀 ▲2五歩 △3三銀 ▲8八玉 △6五歩 (第2図) ▲6九飛 △6六歩 ▲同 銀 △6五歩 ▲5五銀左 (第3図)

 

第1図から△4四銀は、次に△5五銀左とぶつける手を含みにした積極的な手です。しかし、▲2五歩と突いた手に対して、△3三銀と元いた位置に戻りました。何をやっているか分からないように見えますが、後手は第1図の形が最善形なので、今の陣形を維持したまま、手待ちをしたいという意図です。

後手は左辺の8一飛、6二金の形は、角の打ち込みに備えたバランスの取れた好形です。一方、玉の囲いは、△4四歩を突くと▲4五歩と仕掛けられる可能性がありますし、△4四歩を突かないで△3一玉と囲ってしまうと、▲3五歩、△同歩、▲4五桂の仕掛けがある。ということで、後手は最善形を崩さないように手待ちをして、先手が▲8八玉と囲って当たりが強くなったタイミングで△6五歩と仕掛ける(第2図)、というのが後手の作戦でした。

第2図の1手前の▲8八玉のところでは、▲4五桂と先に仕掛けてしまう手も有力で、攻めが好きな人であれば桂馬を跳ねてみたい局面です。羽生九段は堂々と玉を入城して、△6五歩の仕掛けに▲6九飛と迎え撃ちました。

第3図まで、先手は▲5五銀左と、銀をぶつけていきました。代えて、おとなしく▲7七銀と引いておく手もありますし、強く▲6五同銀と取る手も実戦例は少ないですが有力です。このあたり、いろんな選択肢があって、変化が広い局面です。


局面は進んで、第4図。▲4五歩と突いた手に対して△5四銀と打ち、後手が手厚く陣形を補強した局面です。



第4図以下、実戦の進行は、
▲1七角 △7五歩 ▲6四銀 △8六歩 ▲4四角 (第5図) △6三金 ▲同銀成 △8七歩成 ▲同 金 △6三銀 (第6図)

 

第4図では、ひと目は▲4四歩と取り込むところです。歩切れも解消出来ますし、4四歩の拠点は非常に大きいところです。実際、▲4四歩で先手十分に思える局面ですが、▲4四歩に対しては△5五角と王手されて、4四の歩を角で取られてしまう手も気になるところです。そこで、羽生九段はさらに工夫して、▲1七角と自陣角を打ちました。

▲1七角は狙いが難しい手ですが、△5五角に対抗した意味と、後続の▲6四銀と連動して△4二玉型の弱点である5三の地点に狙いをつけた手です。第4図の直前の、▲6三歩、△7二金の利かしを生かした一手でもあります。

先手ペースで局面は進んでいましたが、第5図の▲4四角は、功を焦ってしまったようです。というのは、△6三金が絶好の切り返しになったからです。△6三金に対しては、▲7二銀が打てないとおかしいですが、この場合は▲7二銀と打った瞬間に△8七歩成から殺到されて、▲6九飛の玉飛接近形が祟ってしまいます。

第6図となっては、駒の損得はありませんが、後手の△7二金が手順に捌けたのに対して、先手の▲4八金は取り残されたまま。先手陣の玉頭のキズも解消しにくい形であり、後手が優勢になりました。▲4四角と出るところでは、何はともあれ平凡に▲8六同歩と取っておけば、先手が十分でした。


局面は進んで、第7図。7三の銀を取って、持ち駒を補充した局面です。



第7図以下、実戦の進行は、
△7五桂 ▲6五飛 △8七桂成 ▲同 玉 △5四角 ▲6六歩 △6五角 ▲同 歩 (問題図)

△7五桂が決め手となる急所の一手でした。適当な受けがない先手は▲6五飛としましたが、△8七桂成と金を取った後の△5四角が、先手玉を睨んだ厳しい自陣角でした。


さて、問題図の局面。後手の1一にいる駒は香車ではなくて飛車ですが、この飛車が遊んでいるように見えて、実は攻防によく働いています。




【問題図からの詰め手順】
△7七歩成(76)▲同桂(89)△7六銀打▲8六玉(87)△7七銀(76)▲7五玉(86)△6六角(44)▲6四玉(75)△5四飛打▲6三玉(64)△7四銀打▲同金(73)△6二歩打▲同玉(63)△7一金打▲6三玉(62)△6二歩打▲7三玉(63)△7二歩打▲8三玉(73)△8二香打  まで21手詰
  (SeoTsume1.2 探索局面557396  思考時間2秒)

 

先手玉を上部に追い出して、入玉されてしまいますが(途中図)、1一の飛車が下段によく利いていて、詰み上がりとなります。実戦では、△7六銀を▲同玉と取り、以下数手で終局となりました。


本局は角換わり腰掛銀の最新流行形でしたが、後手の千田六段の緩急自在のバランスの取れた指し回しが印象的な将棋でした。第4図の△5四銀打など、なかなか指せない手で参考になります。

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