脊尾詰ダウンロード 将棋所対応版

今週の詰み筋 (連載 Vol.12) 2017.8.19

今回は8月14日に行われた第30期竜王戦挑戦者決定三番勝負の第1局、羽生善治三冠vs松尾歩八段戦を紹介します。

羽生三冠が最近書かれた「人工知能の核心」という本を最近読んでいます。将棋ソフトをはじめ、アルファ碁や機械学習、ロボットなどの人工知能の最先端の話題について、ご自身の将棋観や経験に基づいて見解を述べておられます。読んでいると、まるで人工知能の専門家が書いているのではないかと錯覚するほど、羽生三冠の人工知能に対する知識の深さに驚くばかりです。将棋関係者のみならず、学生やビジネスマンなど、人工知能に少しでも興味のある方には是非お勧めしたい一冊です。



△松尾八段の誘導で「横歩取り8五飛」戦法になりました。対して▲羽生三冠は、早めに角交換して▲7七桂と跳ねる指し方を選びました。最近では少し珍しい形に思えますが、2010年頃に流行した戦型です。第1図の前例が30局ほどあるようで、タイトル戦では第84期棋聖戦五番勝負第1局の羽生vs渡辺戦や第68期名人戦第1局の三浦vs羽生戦があります。羽生三冠としては、大事な一番なので経験豊富な形に誘導した、ということなのでしょう。



第1図の▲6八銀は5七の地点をあらかじめ守った手で、次に▲8六歩から後手の飛車を圧迫する手を狙いにしています。プロ棋戦の前例はほとんど▲6八銀と指していますが、ソフトは▲6八銀に代えて先に▲8六歩と突く手を推奨しており、今後は▲8六歩が増えるかもしれません。

第1図以下、実戦の進行は、
  △3六歩 ▲同 歩 △2五歩 ▲2八飛 △7四歩 ▲9五角 △8二飛 ▲3五歩 (第2図)



前述のタイトル戦は2局とも、第2図から△9四歩と突いて△9三桂を用意しましたが、本局の△3六歩も前例がある手です。先手の飛車を2八に追った後に△7四歩と突いて桂頭を狙った手に対し、▲9五角と端角を打ったのが好手で、第2図からさらに▲3四歩と桂頭を攻める手が実現して、羽生三冠がペースを掴みました。

その後、△松尾八段の粘り強い指し回しにより羽生三冠も攻めあぐねて、形勢が次第に接近して迎えた第3図。



第3図以下、実戦の進行は、
  △4二角 ▲8一飛成 △4六歩 ▲5四桂 (第4図)



第3図で△4二角と引いて金取りを受けたのが、やや弱気な受け方だったようで、第4図のように得した桂馬で角を取れる展開となっては、再び▲羽生三冠が有利な局面となりました。第3図では△4二角に代えて、強く△6一飛と自陣飛車を打った方が優っていたようで、これなら羽生三冠も寄せ切るのは容易ではなかったでしょう。

羽生三冠がリードを保って迎えた94手目の局面(問題図)。ここでは、後手玉に即詰みが生じていました。



【問題図からの詰め手順】
  ▲5四角 △同 金 ▲2一角 △2三玉 ▲3四金 △同 玉 ▲4三銀 △4五玉 ▲5四銀不成 △3四玉 ▲4三角成 △2三玉 ▲2一龍 △1四玉 ▲3二馬 △1五玉 ▲1六金 まで17手詰
  (SeoTsume1.2 探索局面145528  思考時間0秒)



比較的容易な詰みだったのですが、羽生三冠は手順中の3手目に▲4三金と打ってしまい、即詰みを逃しました。羽生三冠でも簡単な詰みを逃すのかと思うと、妙にホッとするところがあります。しかしそれでもこの後、局面をうまくまとめて確実に勝ち切ったのは、さすがというほかありません。

脊尾詰ダウンロードホームに戻る
パナソニック将棋部ホームに戻る
inserted by FC2 system