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今週の詰み筋 (連載 Vol.24) 2018.5.27

今回は、5月25日に行われた第31期竜王戦ランキング戦1組広瀬章人八段vs豊島将之八段戦をご紹介します。

この対局は、1組トーナメントの決勝戦です。挑戦者を決める本戦トーナメント入りは既に決まっていますが、1組優勝の栄誉を懸けて、また本戦トーナメントで有利なポジションを得るためにも、重要な一局となります。

広瀬八段の先手で、戦型は角換わり腰掛銀になりました。第1図まで、お互いに▲4八金△6二金型(正式な名称はないのでしょうか?)の流行形に進み、35手目、先手の広瀬八段が4筋の位を取ったところです。この手の意味は、将来的に▲4六角と好点の角を打って後手の仕掛けを牽制するのと同時に、△4四歩からの後手の囲いの進展を妨げる狙いがあります。ただ、まだ▲5六銀と腰掛けていない段階での位取りですので、タイミングが少し早い印象があります。後手の豊島八段は、この位を目標に反発していきました。



第1図以下、実戦の進行は、
△4四歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲4六歩 (途中図) △3三銀 ▲9五歩 △4四歩 (第2図)

 

途中図の▲4六歩と控えて打った手は少し弱気にも見えますが、代えて▲4五歩と打ってしまうと△5五銀左と出られて、以下▲5六歩と銀を追い返そうとしても△4六歩と打たれてしまい、この変化は先手がまずいです。

▲4六歩と打った手を見た豊島八段は、スタコラと△3三銀と引き上げたあと、いま交換したばかりの歩を△4四歩と打ちました。(第2図)

一見、意味が分からないかもしれませんが、もともと▲4五歩△4三歩の形だったのを、▲4六歩△4四歩の形に押し戻した格好になります。位を押し戻すという、やや珍しい、高級手筋と言えますでしょうか。

結果的には、第1図の▲4五歩に代えて▲9五歩、△4四歩と進行したのと同一の局面になりました。後手は先手の▲4五歩をキャンセルして、▲9五歩に手を変えさせたことになります。そこまでして後手が4筋の位を保った理由は何であったのか、本譜を追えば後手の構想が分かってきます。


第2図以下、実戦の進行は、
▲5六銀 △3一玉 ▲7九玉 △6五銀 ▲5五銀 △4三角 (途中図) ▲4五歩 △7六銀 ▲同 銀 △同 角 ▲6八玉 (第3図)

 

先手の広瀬八段は、6筋の歩を突かないことにより、後手の△6五歩の仕掛けを警戒した駒組みを進めていましたが、それならばと後手は△6五銀とぶつけて銀交換を迫り、▲5五銀とかわした手に対して、△4三角と自陣角を放ち、攻めの継続を図りました。(途中図)

この△4三角の自陣角が、第1図以降の豊島八段の一連の構想であったと思われます。もしこの手がなければ、6五の銀が立ち往生してしまうところです。途中図以下、7筋でお互いの銀交換が成立し、ここで一手かけて▲6八玉(第3図)と元の位置に戻らざるを得ないようでは、後手の仕掛けが成功したと言えるでしょう。

第3図から、後手は△8六歩から「継ぎ歩」攻めをしたのに対し、先手は4筋から反撃して、激しい攻め合いへと展開していきました。


そして迎えた第4図。先手の広瀬八段が89手目▲4三銀と打ち込んで、激しく攻め込んだ局面です。この銀を取るのか、玉を逃げて5四の銀を取らせる間に反撃するか、悩ましい局面ですが。。



第4図以下、実戦の進行は、
△同 銀 ▲同歩成 △同 玉 ▲4四歩 △5三玉 ▲5四銀 (途中図) △4四玉 ▲4五金 △3三玉 ▲4四角 (第5図)

 

途中図の▲5四銀捨てが、先手にとって絶好打になりました。△同玉と取ればもちろん、▲4五角の王手飛車取りです。

2手前の▲4四歩に対して、どう受けても、▲5四角で飛車取りをかけながらの寄せの筋があり、後手は8一の飛車が負担になってしまった格好です。

本譜は△4四玉とかわしましたが、第5図の▲4四角で王手金取りをかけながら後手玉を下段に落とす形になりました。形勢は急転直下で、先手が勝勢になりました。

第4図では、△同玉に代えて△2二玉と逃げて、以下▲5四銀成に対して、△8七歩成、▲同歩、△8六歩の十字飛車の筋で反撃する手段が有力だったようです。


第5図から数手進んだ局面が、今週の問題図です。



【問題図からの詰め手順】
▲4三銀成 △同 玉 ▲4四馬 △3二玉 ▲5四角 △4一玉 ▲4二歩 △5一玉 (途中図) ▲6二金 △4二玉 ▲4三馬 △3一玉 ▲2一馬 △4一玉 ▲3三桂 △4二玉 ▲4三角成 まで17手詰
  (SeoTsume1.2 探索局面75845  思考時間0秒)

 

問題図から、▲4三銀成と捨て駒をして、▲4四馬と急所の位置に引いたあとは、自然に王手していけば詰みます。

実戦では、広瀬八段はこの詰み筋を読み切れず、▲4九金と詰めろを受けてしまいました。これは推測ですが、▲4四馬と引いた手に対して、△5二玉と逃げる変化に対して、▲6三角の捨て駒が見えにくかったのかもしれません。▲6三角に代えて、一見自然に見える▲4三角ではきわどく詰みません。

▲4九金と受けたあとは、きわどい勝負となりましたが、最後はきっちりと広瀬八段が後手玉を即詰みに討ち取り、見事、一組優勝を果たしました。

本局は、仕掛け前後の豊島八段の見事な構想力と、それ以降の激しいパンチの応酬が見応えのあった一局でした。

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